学校で教えてくれないデキる研修医のつくり方

18. デキる研修医の診察術 身体所見編

まずは簡単な聴診や触診をきっかけに診察習慣を身につけて、じっくりと診察スキルを磨いて行きましょう!

まずは毎日しっかり診察する習慣をつけよう!

研修医の皆さんは、卒業前のOSCE(客観的臨床能力試験)で習得した身体診察スキルを日常臨床の中でどれぐらい活用できていますか?
患者さんが何か症状を訴えたとき、とりあえずルーチンで検査オーダーを出していませんか?

本来は症状→身体診察→検査という診断までのプロセスが、身体診察を省略してスクリーニング目的で検査をオーダーしてしまうというのは、特に大きな病院の忙しい若手病棟医によくみられる場面です。
そして皆さん達研修医も、回診時にすら身体所見をとる暇もないほど忙しいことも稀ではありません。

血液検査を始めとする種々の検査と比べ、定量評価が難しいために省略されがちな身体診察ですが、簡便にでき、すぐに結果がわかり、非侵襲的かつ経済的、という点では他の検査に大きなアドバンテージを持っています。

身体所見を見逃さず早期診断・治療につなげられるかどうかは診察スキルの熟練度に影響されますが、研修医のうちから自分の担当患者さんを毎日丁寧に診察する習慣を続けていれば、初期研修が終わる頃には相当スキルアップしているはずです。

逆に普段ろくに診察はせず目ぼしい異常所見だけ診察していては、残念ながらフィジカルイグザミネーションのスキルは上達しません。
何故なら病的意義のない正常所見の中にも色々な所見のバリエーションがあり、それらを多く経験しておくことで、いざという時にその所見が正常か異常かの違いがわかるようになるからです。

今日は、初期研修中によく診察する機会の多い心雑音と腹膜刺激兆候を例に、比較的感度が高く研修初日からでも簡単に診て活用できる身体所見を紹介します。

step1右上寄りの収縮期雑音から大動脈弁狭窄症を見つけてみよう!

収縮期雑音は医師なら誰もが日常的に遭遇する代表的な心雑音であり、その原因は心臓弁膜症や高血圧、老人性、健常者の機能性雑音など多岐にわたります。

しかし、皆さんが忙しい初期研修の合間にわざわざ学生時代の教科書を引っ張りだして鑑別疾患ごとに心雑音の特徴を覚える必要はありません。
2年間で色々な診療科をローテートする研修医に、まず覚えておいて欲しい収縮期雑音は、大動脈弁狭窄症のスクリーニングに役立つ「右上寄りの収縮期雑音」です。

右上寄りというのは、心尖部(左下)に対しての右上です。すなわち心雑音の最強点が心尖部ではなく大動脈領域(第2肋間胸骨右縁)であったり、心雑音が右鎖骨or右頸部に放散するという意味です。

学生時代に循環器をよく勉強した方は「大動脈弁狭窄症の収縮期雑音であれば、駆出性でダイヤ型のパターンを示し、雑音の性状は荒々しく高調で、重症になれば雑音のピークが収縮後期にずれたり(陽性尤度比4.4)、II音は減弱する(陽性尤度比3.6)」という心雑音自体の特徴がスラスラ出てくるかもしれません。

しかし、心雑音の性状まで考慮した正攻法の診断プロセスには、そもそも聴診スキル自体の熟練を要します。
研修医のうちはまだ心雑音を聴き慣れていないでしょうから、まずは心雑音の性状よりも最強点の位置を意識して自分の担当患者さんに心尖部より右上の方でよく聞こえる収縮期雑音がないかどうかをよくチェックしてください。

「右上寄りの収縮期雑音」は、所見をとるのが簡単なわりに大動脈弁狭窄症に対する感度が高く(「最強点が大動脈領域」は感度58-75%、「頸部への放散」は感度90-98%)、手始めのスクリーニングに用いるには有用な身体所見です(参考:[1]マクギーの身体診断学)。

現代の高齢化社会では、動脈硬化に伴う大動脈弁狭窄症が非常に多くなってきています。私自身、外来診療をしていて「これまで何にも病気したことないよ(高血圧で通院中なんですけどね)」なんて言って笑っている高齢者の方に、聴診をきっかけに無症候性の大動脈弁狭窄症を見つけることがよくあります。

大動脈弁狭窄症は、重症になれば突然死のリスクも伴う弁膜症ですが、医師があまり聴診をしなくなった現代では未発見未治療の大動脈弁狭窄症の患者さんがかなり潜んでいると思われます。 研修医の皆さんが各科ローテート中に、今まで心エコー未施行の患者さんに「右上寄りの収縮期雑音」を見つけたら、積極的に循環器内科に心エコーの依頼を出してください。

当然「右上寄りの収縮期雑音」の全てが大動脈弁狭窄症ではなく、多くは高血圧性心肥大や大動脈弁石灰化といった心エコー結果が返ってくるでしょうが、いずれ必ず無症候性の重症大動脈弁狭窄症が見つかり患者さんを救うことになりますので、初期研修が終わっても「右上寄りの収縮期雑音」を忘れずに聴診を続けてください。

point2踵下ろしテストで腹膜刺激兆候を診てみよう!

研修医が当直をしていて腹痛の患者さんを診る際、よく判断に困るのが腹膜刺激兆候の有無です。

たとえば「そんなに全身状態は悪くなさそうなのに患者本人はお腹をかなり痛がっている」というケース。
「腹膜刺激兆候の定番所見である反兆痛や筋性防御は一見なさそうだけど、自分の診察で腹膜炎をちゃんと否定できているのか自信がない」と不安になった研修医が夜中に片っ端から検査をオーダーしてしまうことはよくあることです。

そんな臨床経験の少ない研修医にオススメの腹膜刺激兆候所見のとり方は、踵下ろしテストです。
爪先立ちになってからストンと踵を下ろした時にお腹に痛みが響くかどうか確認するものです。踵下ろしテストと同様に腹壁への衝撃を利用した咳嗽テスト(咳をさせて腹痛が誘発される)も合わせて覚えておいてください。

研修医に踵下ろしテストと咳嗽テストをオススメする理由は、2つあります。反兆痛や筋性防御と違って診察技術の熟練度に所見が左右されないという点と、感度にバラつきのある反兆痛や筋性防御より感度が安定して高いため腹膜炎を除外したい場合に有用という点です。

もちろん、どんな患者さんでも反兆痛や筋性防御も含めてしっかり腹部診察する必要はありますし、腹膜炎に限らず急性腹症の疑いがあれば必ず指導医を呼んで診てもらうべきなのは言うまでもありません。

ちなみに腹膜炎における陽性尤度比と陰性尤度比を反兆痛、筋性防御、咳嗽テストの順に比較すると、陽性尤度比(2.1、2.6、2.4)、陰性尤度比(0.5、0.6、0.3)となります(参考:[1]マクギーの身体診断学)。
研修医が、診察技術の熟練度に左右されず使える腹膜炎の身体所見として、踵下ろしテストと咳嗽テストを是非覚えておいてください。

point3オススメ身体診察関連書籍の紹介

研修医の皆さん(もしくは医学生)がフィジカルイグザミネーションを楽しく学び、日々のベッドサイドで活用できるように、代表的なマニュアル本をいくつかご紹介します。

参考[1]
「マクギーの身体診断学」 柴田寿彦、長田芳幸(翻訳) エルゼビア・ジャパン
内科医なら誰もが知っている、身体診察のバイブル。あらゆる身体所見を感度、特異度、陽性尤度比、陰性尤度比を比較しながら発症機序レベルから丁寧に解説してくれます。単に所見が有るか無いかではなく、診断的意義も踏まえて身体診察スキルを磨きたい人に一押しの1冊。

参考[2]
「研修医必携 エビデンス身体診察」 伴信太郎、宮崎景 文光堂
上記の「マクギー」同様、陽性尤度比、陰性尤度比も踏まえて身体所見を学べる良書。豊富な図説とともに、実際に身体所見をとる際のコツについても詳しく解説してくれます。要点を絞って1日で読み切れるボリュームにまとめてあり、「マクギー」を教科書とするならこちらは実践マニュアルといった感じ。最初の1冊目としてオススメ。

参考[3]
「循環器診察力腕試し 達人の極意,マスター!」 室生卓 金芳堂
循環器フィジカルイグザミネーションの達人、室生先生がベッドサイドで活かせる循環器身体診察の秘訣をクイズ形式でテンポ良く講義してくれます。日常臨床で出会う頻度も考慮した上で、初学者が心臓聴診と頸静脈診察のコツを楽しく身につけられるよう、よく配慮された名入門書。巻末の「日常診療で使える一言集」はまさに使える!名言揃い。

PROFILE

  • 竹田 陽介 Takeda Yosuke

    心臓病、生活習慣病の診療を専門とする内科医師。チーム医療におけるコミュニケーション技術や患者満足度調査において高く評価されている。独自の医療コミュニケーション理論に基づく病状説明は、わかりやすく安心できると幅広い年代から信頼され、家族を連れて来院する患者も多い。

    現在、循環器内科医師としての診療に加え、Vitaly代表としての講演・研修や企業に対する健康経営コンサルティングも行っている。


     株式会社Vitaly

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