学校で教えてくれないデキる研修医のつくり方

2. はじめてのカルテ作成

電子カルテを開いてカルテ記事を作成し、その日の出来事をSOAP形式でまとめていく。「カルテを書く」という仕事は、研修医にとって面倒なルーチンワークと思われがちの仕事です。しかし、病棟というチーム医療の最前線では、担当医のカルテは非常に大切な役割を担っています。今回は情報共有ツールとしてのカルテの作り方についてお話ししましょう。

担当医のカルテは、皆から注目されている!?

担当医が書いたカルテというのは、実は院内のさまざまな医療スタッフに見られています。皆さんが直接お世話になる指導医の先生や病棟の看護師さん達はもちろん、まだ面識のない薬剤師や栄養士の方々、さらには外来主治医や当直医の先生まで、自分の知らないところでカルテが開かれています。どうして皆さんの書いたカルテが他の医療スタッフから注目されるのか? それは担当医以外の医療スタッフにとって、入院患者さんの現状を把握するための一番手っ取り早い方法がカルテをチェックすることだからです。カルテは医療チームのリーダーである担当医の考えを、周りのスタッフが共有するためには欠かせない大切な情報源です。

読み手を意識してカルテを書こう

良いカルテは、読めばすぐに患者さんの状況を把握できます。逆に悪いカルテは、いくら読んでも要点がはっきりせず全体像もつかめません。 病院実習を思い出してください。どの科を回ったときも、入院患者さんを受け持ったら、まずはカルテを開いて情報収集を始めたでしょう? 理路整然としていてそのまま教授回診のプレゼンに使えそうなカルテもあれば、断片的なことしか書いてなくて情報収集に苦労させられたカルテもあったはずです。SOAP形式で長く丁寧に書いてあっても、読み手にわかりにくければ悪いカルテになってしまいます。一方、良いカルテというのは、読み手を意識して書かれており、短くても症状から診断、治療の流れまでの要点がまとまっています。読み手である病棟スタッフが忙しい業務の中でスムーズに情報を把握できるかどうかは、皆さんのカルテ次第です。病棟の看護師さんに「先生のカルテ、わかりやすくていつも助かってます」と言われるカルテを目指しましょう。

DSIRで覚えよう! カルテ作成の4つの要点

  • Step1Diagnosis 診断
  • Step2Story ストーリー
  • Step3Indicator 評価指標
  • Step4Reminder 注意点

読み手にスムーズに情報収集してもらえるようなカルテを作成するためには、DSIRという4つの要点をしっかり押さえておくことが大切です。DSIRの頭文字から始まるDiagnosis (診断)、Story(ストーリー)Indicator (評価指標)、Reminder(注意点)は、チーム医療の中で優先して共有すべき患者情報の要点です。OSCEで学んだSOAPに加えて、DSIRを意識してカルテを書いていきましょう。

Diagnosis診断Diagnosis 診断

診断といっても、単なる病名のことだけではありません。臨床的な診断名に加え、病型、重症度、病巣の位置や組織型、直近の検査値など、病態を把握するためのキー情報をしっかりと明記しておくことが大切です。

 

  • #1メイン疾患(キー情報)
  • #2合併症A(キー情報)
  • #3合併症B(キー情報)

 

というように、入院の理由になったメイン病名と合併症をリストアップして、カルテの最上段に書いておきましょう。 皆さんは他人のカルテを見ていて、診断名を探して画面をスクロールしたことはありませんか? SOAP形式だと、多くの人が診断名をカルテ後半のAPの欄に書きます。しかし、情報収集をしている読み手側としては、カルテを一目見た瞬間にサマライズされた診断名で全体像を把握できると非常に助かります。疾患に応じて、カッコ()のなかに、どのようなキー情報を入れるかも研修医のセンスが問われるところです。指導医や当直医に「こいつ、よくわかっているなぁ」と感心されるように、色々工夫してみましょう。

StoryストーリーStory ストーリー

何を契機に発症したのか、どのような所見や検査値を元に診断されたのか、何を目的に入院したのか(精査?治療?)、治療法はどのように選択されたのか、何故この治療法が選択されたのか、退院まではどのような流れを予定しているのか、患者さんの治療経過を一連の流れに沿って筋道立てて記載しておきましょう。

特に大学病院では、教科書通りの典型的な症例が入院してくることはむしろ稀だったりします。診断が未だ確定していないような症例の場合、担当医が臨床ストーリーのシナリオをしっかり書いておかないと、コメディカルスタッフ達は「この患者さんは何の病気で何をするために入院しているのか?」が漠然としたまま目の前の業務をこなすはめになります。カルテの#〜が並ぶ診断リストの下あたりに、【サマリー】という項目を作って、発症、診断、治療のゴールまでの臨床ストーリーをまとめておきましょう。

Indicator 評価指標Indicator 評価指標

皆さんは、メルクマールという言葉を聞いたことがあるでしょうか? ベテランの先生がよく使う古い医療用語で、病勢の指標となる検査値などを指す言葉です。メルクマールは元々ドイツ語で指標や目標を表すmerkmalが語源で、日本の臨床現場でしばしば使われ、カンファレンス等では「メルクマールはどう動いてるの?」と聞かれたりします。DSIRの3つ目として、皆さんに覚えておいてもらいたいのが、このメルクマールを一般的な英語で言い換えたIndicator(評価指標)です。

日々、患者さんの治療経過を追って行く上で、病態が良くなっているのか、悪くなっているのかを客観的な指標を用いて、医療チーム全員で現状をシェアすることが重要です。治療効果判定の指標となる症状や所見、検査値などが臨床のIndicatorとして使えますが、まずはメイン疾患の診断基準に含まれている検査値に着目しましょう。虚血性心疾患なら心電図変化やCKなどの逸脱酵素、膠原病なら自己抗体や炎症マーカーなど、疾患ごとに病勢の指標となる検査値があるはずです。評価指標となる検査値が、時間とともにどう動いていくのかをよく観察してください。現在の治療経過は順調か、それとも想定外の状況なのか、検査値の背景にある病態も推理しながら、読み手にわかりやすくカルテに記載していきましょう。

Reminder注意点Reminder 注意点

カルテ作成の最後の要点はReminder(注意点)、病棟スタッフが気に留めておくべきポイントも漏らさずカルテに書いておきましょう。多くの患者さんはメイン疾患以外にもさまざまな合併症を抱えています。他の診療科で治療中の他臓器疾患を合併していることもよくあります。メイン疾患だけに目が行ってしまうと、「知らなかった病気」に足をすくわれることもあります。患者さんを一番把握している担当医が「うっかり」することは稀ですが、シフト制で動いている看護師さんや、スポットで診る当直医が気づかず地雷を踏んでしまうことは結構あります。薬剤アレルギーや患者さんの社会的背景(宗教観や家族構成)にも配慮して、「知っておけば安全」という注意点をスタッフ皆で情報共有していきましょう。

入院日と週末にはカルテをサマリー化しておこう

DSIRをしっかり盛り込めば、かなりのクオリティのカルテになります。しかし、病棟業務に慣れないうちから、DSIRで要点を整理したカルテを毎日更新していくなんて、よっぽど優秀で要領の良い研修医じゃないと不可能です。カルテ作成以外にも山ほど仕事を抱えている研修医が、いかに少ない労力で皆の役に立つカルテを書くか、そのためのテクニックがカルテのサマリー化です。日々のカルテは、問題点の変化を中心にSOAPで簡潔に書いておくだけに留めて、節目節目でカルテをサマリー化しておきましょう。

サマリー化カルテを作る節目は、入院日(治療開始時の評価)や週末(当直医への申し送りも兼ねて)が効果的です。入院日のサマリー化カルテは「入院時サマリー」、週末のサマリー化カルテは「週間サマリー」と電子カルテの付箋機能でタイトルをつけておきましょう。何かイベント(手術や急変など)があれば、その都度「中間サマリー」として状況を整理しておけば、周りへの配慮も完璧です。「仕事のデキる研修医」として、皆さんの株もグンと上がるはずです。 サマリーと言うと、研修医のデューティ(義務の業務)として悪名高い(?)退院サマリーがまず思い浮かぶかもしれませんが、入院時サマリーや週間サマリーはデューティではありませんので安心してください。書くのをサボれば指導医に怒られる退院サマリーとは違って、どこかで書いておけば周りのスタッフ達に感謝されます。最初にDSIRで入院時サマリーをまとめておけば、以降のサマリーはそれをベースにして簡単に作れます。サマリー化カルテは、担当医不在時の「読む申し送り」として最も真価を発揮します。「デキる研修医」として、週末は週間サマリーを書いてから、心置きなく休暇をとりましょう。

PROFILE

  • 竹田 陽介 Takeda Yosuke

    心臓病、生活習慣病の診療を専門とする内科医師。チーム医療におけるコミュニケーション技術や患者満足度調査において高く評価されている。独自の医療コミュニケーション理論に基づく病状説明は、わかりやすく安心できると幅広い年代から信頼され、家族を連れて来院する患者も多い。

    現在、循環器内科医師としての診療に加え、Vitaly代表としての講演・研修や企業に対する健康経営コンサルティングも行っている。


     株式会社Vitaly

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