学校で教えてくれないデキる研修医のつくり方

1. はじめての入院業務

研修医にとって入院というのは心の準備なんて、できない突発的なイベントです。皆さんが研修医として働き始めて、患者さんの入院に突然直面するはずです。今回は、皆さんが研修医として病棟業務をこなす上で避けては通れない「はじめての入院業務」のお話をしましょう。

入院イベントは突然に

医学部生の皆さんもご存知の通り、大学の附属病院もしくは市中の総合病院で働き始めた研修医にとって、点滴や包帯交換、マーゲンチューブの挿入や血液培養などの処置や指示出しといった病棟の雑用業務が、日々のメイン業務となります。これは研修医である以上、どの病院、どの診療科をローテートしていても一緒です。最初の頃はこなすだけで精一杯でしょうが、時間とともに経験を積んでいけば苦戦した手技も上手くこなせるようになりますので、安心してください。しかし、そんな研修医業務のなかにも、できれば働き始める前にポイントを予習しておいたほうが良い業務はいくつかあります。その1つが今回のテーマである入院業務です。入院業務は、その名の通り病棟に新しい患者さんが入院してきた際に医師がやらねばならない「一連の仕事」です。多くの研修病院では最初は指導医の先生が皆さんに入院業務のお手本を見せてくれるでしょう。しかし、ベテラン指導医の流れるような手際の入院業務を横から1回見ただけでは、ほとんどの研修医は入院業務をマスターできません。それでも、そんな研修医の気持ちなんて露知らず、指導医の先生は「じゃ、次からは先生がやっといてね」なんて恐ろしいことを笑顔でさらっと言ってきます。そんなときにあたふたしないように、皆さんは次の入院業務の流れをしっかり予習しておきましょう。

教科書に書かれていない入院業務の流れ

  • Step1担当医の決定と情報収集
  • Step2入院時指示その1
  • Step3診察と初回の病状説明
  • Step4入院時指示その2
  • Step5入院診療計画書と入院時サマリーの作成

入院業務の流れを5つのステップに分けて解説していきます。病院や診療科によって小さな違いはありますが、研修医の先生は入院業務の流れをこの5つのステップで考えておけばほぼ問題ないでしょう。

Step1担当医の決定と情報収集

予定入院であれば、多くは当日の朝に、病棟医長が入院患者さんの担当医を振り分けます。研修医の皆さんからすると、自分の指導医からコールがかかってきて「もしもし? 今日僕たちに入院が入ったよ。患者さんの名前は◯◯でIDは20150116、7東の個室だってさ。僕も外来が終わったら行くので、カルテ読んで一通り指示出しといてくれる? 何かあったら外来2診にコールしてね。よろしく」といったふうに入院の連絡を受けます。

 

入院が決まったら、「情報収集」を以下の流れで行いましょう。

  • ・病棟に行って、ナースステーションのパソコンから電子カルテを開く。
  • ・直近の外来カルテと(入院歴があれば)前回の退院サマリーを開く。
  • ・「診断(主病名と合併症)」、「入院目的(検査or治療)」、「現在の状態(疾患の重症度と全身状態)」の情報を把握する。
  • ・検査データの経時的変化と画像所見をチェックする。

 

まず病棟に行って、ナースステーションのパソコンを1台確保し、電子カルテを開きましょう。電子カルテを開いたら、まず「直近の外来カルテ」と「前回の退院サマリー」を探してください。外来カルテがあまり書かれていなかったり、初回入院だった場合は、スキャンで取り込まれた他院からの紹介状を探しましょう。少なくとも発症から自院の受診までの経過はわかるはずです。

 

最優先で把握すべき情報は3つ、「診断(主病名と合併症)」「入院目的(検査or治療)」、「現在の状態(疾患の重症度と全身状態)」です。それらに加えて可能なら検査データの経時的変化と画像所見も10分程度を目安に把握しましょう。ポイントを押さえて情報収集を行い、ステップ1は終了です。ここで必要以上に時間をかけてはいけません。病態と治療方針の考察に必要な詳細情報は、後でゆっくりとチェックしましょう。

Step2入院時指示その1

電子カルテで情報収集をした後、すぐに取りかかるべきASAPの業務、それが入院時指示その1です。指示というのは、医療スタッフが病棟で医療行為を行うために必要となる「医師からのオーダー(命令)」です。緊急時は事後報告でもOKですが、医師は自分の手で行う検査や治療も含めて、入院中の医療行為全てをオーダーしなければなりません。担当医が入院指示を出さないと医師以外の医療スタッフ全ての動きが制限されますので注意してください。
入院指示その1は、治療スタート時にとりあえず出す暫定的な指示です。この時点で、指示の精度はそんなに要りません。自分の指導医の他の担当患者さんを参考にして、わかる範囲での指示を出しましょう。バイタル測定の頻度、病棟内での安静度、病院食のメニュー、清潔(入浴、シャワー、清拭)、内服薬(まずは外来処方を継続)といった継続指示を中心に指示を電子カルテに入力して行きましょう。慣れないうちは発熱時や疼痛時などの一時指示を出すのは後からでもOKです。迷う項目は入院時指示その2で指導医と一緒に入力しましょう。

入院時指示その1は鮮度が大切です。簡潔でもスピーディに入院時指示を出し、円滑なチーム医療に貢献しましょう。

Step3診察と初回の病状説明

いよいよ患者さんとのファーストコンタクトです。入院指示その1を出したら、ナースステーションから病室へと向かいましょう。入院患者さんの部屋の前にやって来たら、ノックをして中からの返事を待ち、失礼しますと一声かけて入室しましょう。病室に入ると、患者さんの多くは付き添いのご家族と一緒のはずです。患者さんとそのご家族は、病院に入院するというだけで多かれ少なかれ不安を抱え緊張しています。指導医の代わりに研修医が早めに病室を訪れて、安心させてあげてください。患者さんとご家族としっかり目を合わせてから、はっきりした口調でゆっくりと「今回、◯◯さんの担当医となりました◯◯と申します。指導医の◯◯といっしょに入院中の治療を担当させていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。」と、ちゃんとお辞儀もつけて挨拶しましょう。視診で顔色、表情、呼吸状態をさっと観察してから、全身を系統的に診察して行きましょう。診察をしながら、電子カルテで仕入れた病歴や治療経過の確認をしましょう。問診のアイスブレイキングを「◯◯さんが当院にいらっしゃったきっかけは、ウチの医局のOBで開業された◯◯先生からのご紹介ですよね?」とか「外来では、ずっと◯◯先生に診ていただいてるんですよね?」など、接点となる人物の話題から入ると、一気に距離感が縮まります。病室の滞在時間は10〜20分を目安として、問診や診察が不十分と思えば、後でもう一度病室を訪れましょう。「長いけど一度だけ」よりも「短くても頻繁」に病室を訪れることで、担当医の熱心さが伝わり、患者さんの信頼につながります。

診察の後は初回の病状説明です。病状説明とは、病気のメカニズムと治療法そして治療の合併症について医師から患者さんに説明し理解と了承を得る手続きです。昔は「ムンテラ」、今は「インフォームドコンセント」とか「I.C.」と言ったりします。皆さんは必ず指導医の先生といっしょに、初回の病状説明を行いましょう。病状説明時の研修医の役目は書記です。病院所定の用紙に指導医の説明した内容の要点をまとめましょう。教科書に書いていなかった疾患の臨床像を学ぶ良い機会となりますので、オペの後などで疲れていても居眠りせずに書記を務めましょう。

Step4入院時指示その2

5つのステップの中で、補完的な業務が入院時指示その2です。というのも基本的な入院時指示は入院時指示その1で終わっているので、その2では診察などで新たに得られた情報をもとに、指示を修正もしくは追加します。病状説明が終わったら、指導医とナースステーションに戻って、一緒に入院指示その2を出しましょう。診察の結果、思ったより状態が不安定と感じたらバイタル測定を3検から4検に変更したり、なにか食物アレルギーがあるようなら食事指示にコメントを追加して栄養部に連絡したりと、ここでは皆さんの「抜け目のなさ」の精度が試されます。また、入院時指示その1でスキップした項目なども指導医に確認しながら入力していきましょう。

Step5入院診療計画書と入院時サマリーの作成

最後に残った入院業務は、入院診療計画書と入院時サマリーという2つの書類仕事です。皆さんが肝に銘じておかねばならないのは、入院時サマリーを作成するまでが入院業務だということです。入院時サマリーとは、入院当日に主訴や現病歴から診断や治療方針までをまとめたカルテのことです。この入院時サマリーがないと、入院患者さんに何かあった時に担当医以外のスタッフ(特に当直医)は、状況をスムーズに把握できません。ですから、皆さんはどんなに疲れていても、お腹が空いていても、入院時サマリーを書き終えるまで家に帰っちゃダメなわけです。夕方まで待たずに、空き時間を見つけたら、すかさず書き始めておきましょう。

ここまでお話しした入院業務の流れに沿って、仕事をソツなくこなした研修医の皆さんは、指導医から「この研修医、なかなか仕事できるな。これならある程度は任せてもいっか」と思われてしまっているはずです。そうなると入院指示その2を終えた指導医のほとんどが「じゃ、後は大丈夫かな? カルテは先生が書いといてくれる? よろしく〜」と言ってフェイドアウトを図ります。ここで間違っても「はい、大丈夫です。わかりました!」と元気よく返答してはなりません。腰を浮かせかけた指導医の腕を掴んで、「先生、念のため今日の入院患者さんの治療について、もう少し教えていただいてもいいですか?」と待ったをかけましょう。よほど忙しくない限り、可愛い研修医に熱心に教えてくれるはずです。入院患者さんの診断名と重症度、一般的な治療オプションと本症例で適応となる治療のベネフィットとリスク、入院中の治療計画と、退院予想時期を指導医の先生に確認していきましょう。話の途中で、さりげなく電子カルテの画面で入院診療計画書と入院時サマリーを開いてみましょう。ここでのコツは、「これ、どう書くんですか?」ではなく「こういった感じで書いておけば良いでしょうか?」と、少しでも手をつけてからお伺いを立てることです。主体的に頑張ろうとする研修医に、指導医は上機嫌で教えてくれるでしょう(入院時サマリーの詳しい書き方については、また今度詳しく説明します)。指導医が去った後、病棟の処置などが溜まっていないことを確認して、書類仕事の仕上げにかかります。入院診療計画書をプリントアウトしてハンコを押し、電子カルテ内の入院時サマリーを見直して付箋(医療スタッフ皆の目印になるように)をつけましょう。最後に、入院患者さんの担当ナースさんに、担当医として今回入院の要約(診断と治療方針)をわかりやすく説明し、「まだ仕事に慣れてないので、ご迷惑をかけることも多いと思いますが、何かお気づきの点があれば、いつでも遠慮なくおっしゃってください。どうぞ宜しくお願いします。」としっかり頭を下げて言えれば、デキる研修医としてはじめての入院業務はめでたく終了です。

終わりに

「はじめての入院業務」、お疲れ様でした。最後まで読んだ皆さんは、入院業務の全体像をつかめましたでしょうか? ともすればなんとなく一連の仕事に取り掛かってしまいがちな入院業務も、しっかりルーチンを定めることで、飛躍的に精度があがります。今回お話しした5ステップの入院業務の流れを参考にして、皆さんはスタッフから信頼される「デキる研修医」となって病棟で活躍してください。

PROFILE

  • 竹田 陽介 Takeda Yosuke

    心臓病、生活習慣病の診療を専門とする内科医師。チーム医療におけるコミュニケーション技術や患者満足度調査において高く評価されている。独自の医療コミュニケーション理論に基づく病状説明は、わかりやすく安心できると幅広い年代から信頼され、家族を連れて来院する患者も多い。

    現在、循環器内科医師としての診療に加え、Vitaly代表としての講演・研修や企業に対する健康経営コンサルティングも行っている。


     株式会社Vitaly

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